50音順におすすめの作家とその作品を紹介する「あ行」篇(歯車、草迷宮、山高帽子、二銭銅貨、半七捕物帳)

なんとなく思い立ったので50音順におすすめの作家とその作品をまとめてみた。

ということでまずは「あ行」。

目次

芥川龍之介

教科書で扱われる日本を代表する作家。
文学の新人賞、「芥川賞」の芥川龍之介。

歯車

僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がはは大抵松ばかり茂つてゐた。上り列車に間に合ふかどうかは可也怪しいのに違ひなかつた。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せてゐた。彼は棗のやうにまるまると肥つた、短い顋髯の持ち主だつた。僕は時間を気にしながら、時々彼と話をした。

晩年の代表作の1つで、「話」らしい「話」はなく、芥川を自殺に追い詰めたさまざまな不気味な幻視、関連妄想が描かれている。
芥川の最高傑作と評価する作家もいる一方、書きすぎて雑音があるとする評する作家も多い。

教科書で紹介される初期中期作品は教訓じみた話が多いが、後期は自身の思いが反映されていて個人的には好き。

歯車

泉鏡花

江戸文芸の影響を深く受けた怪奇趣味と特有のロマンティシズムで、幻想文学の先駆者。

草迷宮

三浦の大崩壊を、魔所だと云う。葉山一帯の海岸を屏風で劃った、桜山の裾が、見も馴れぬ獣のごとく、洋へ躍込んだ、一方は長者園の浜で、逗子から森戸、葉山をかけて、夏向き海水浴の時分、人死にのあるのは、この辺ではここが多い。

正直あらすじは覚えていないけど、個人的に鏡花と言えば、「夜行巡査」「外科室」「高野聖」でもなく「草迷宮」か「夜叉ヶ池」が好き。
幻想的な情景と鏡花の文章がすごくマッチして、引き込まれる。
とは言え、さすがに何言っているのかわからない時もあるので、先にあらすじを把握したうえで、リズムに乗って読むのがおすすめ。

草迷宮

amazonに岩波の版がなかった。なぜ、もしかしてもう絶版?

内田百閒

1番好きな作家。
夢の光景のように不可解な恐怖を幻想的に描いた小説や、独自の論理で諧謔に富んだ随筆を多数執筆した名文家で、三島も百閒のことを「現代随一の文章家」と言ってる。

山高帽子

私は厠から出て来て、書斎の机の前に坐った。何も変はった事はないのに、何だか落ちつかなかった。開け放った窓の外に、夕方の近い曇った空がかぶさってゐた。

自殺した芥川をモデルに書いた先品。
狂気と不安が描かれている世界で、それを他人に擦り付けユーモアに変えた百閒と、徐々にそれに蝕まれ自殺した芥川を対比的に描いている。
情景描写が事細かに綴られているのだけど、それなりの余白もあり、ちょうどいい塩梅に引き込まれる。
山高帽子を原案とし、漫画家山本直樹が「眠り姫」として書き、七里圭が映画化している。たぶんまだアンコール上演していると思われる。

冥土・旅順入城式 (岩波文庫)

江戸川乱歩

推理小説家であり、怪奇小説家。
たぶん、日本で本格推理小説家の走り。

二銭銅貨

「あの泥棒が羨ましい」二人のあいだにこんな言葉がかわされるほど、そのころは窮迫していた。場末の貧弱な下駄屋の二階の、ただひと間しかない六畳に、一閑張りの破れ机を二つならべて、松村武とこの私とが、変な空想ばかりたくましくして、ゴロゴロしていたころのお話である。

乱歩のデビュー作。で、本格物。
幅広い作風で全て面白いけど、やっぱりデビュー作というので、これ。
ちなみに日本最初の本格探偵小説ともいわれる作品らしい。
個人的に青春小説として好き。

二銭銅貨

岡本綺堂

劇作家で作家。
歌舞伎から怪奇小説、捕物帳まで幅広く手がけた。

半七捕物帳

これも明治三十年の秋と記憶している。十月はじめの日曜日の朝、わたしが例によって半七老人を訪問すると、老人は六畳の座敷の縁側に近いところに坐って、東京日日新聞を読んでいた。

半七老人が、若い新聞記者を相手に昔話を語る形で描かれる作品。
全6巻で、明治5年生まれの綺堂が江戸時代を書いた時代小説。
捕物帳だけでなく、江戸時代の文化、雰囲気を感じることができる。

半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

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